india

海外での挑戦
|インド編

インド国内カードRuPayと
JCBカードが一体化した
デュアルブランドカードの誕生

2019年7月、JCBはインドのNational Payments Corporation of India(以下:NPCI)との提携により、
インドで初のJCBカード発行を開始した。今回発行されたカードは、NPCIが管理・運営する国内ブランドRuPayとJCBブランドが一体化した
「RuPay/JCBカード」。このカードは国内ではRuPayカードとして、海外ではJCBカードとして利用することができる。
JCBはインドを海外展開における重要国のひとつとして位置付け、南アジアでのさらなる会員拡大を目指している。
ここでは、今回のプロジェクトに携わった社員たちの仕事を追った。

  • 高久 直裕

    2007年入社
    JCB CARD INTERNATIONAL (SOUTHASIA) PRIVATE LIMITED (ムンバイ拠点)

  • 佐藤 陽

    2005年入社
    国際営業一部

  • 西本 理恵

    2013年入社
    国際営業一部

所属部署・役職は取材当時のものです

巨大キャッシュレス市場
インドで、
JCB国際カード
ビジネスの拡大に挑む

人口13億人を抱える巨大市場、インド。インドでは近年の経済成長や同国政府による強力な後押しにより、キャッシュレス市場が急速に拡大。また、インド国外への渡航者数も年々増加し、2018年には約2,600万人を突破、国内外でのキャッシュレスニーズが高まっている。
JCBは2008年にインド準備銀行(インドにおける中央銀行)の主導でNPCIが設立されてまもなく、提携交渉に着手。2015年にはNPCIとの提携契約を締結。2017年にはNPCIネットワーク傘下のカード加盟店及びATMでのJCBカードの取り扱いを開始し、同年にはインド最大の都市ムンバイに現地法人を設立するなど、インドでの事業展開を着々と進めてきた。
主要メンバーの一人としてインド展開に深く関わってきたのが、高久だ。高久は2014年にインド担当となって以来、NPCIとの提携交渉や現地法人設立準備に携わり、ムンバイ拠点の開設とともに2017年に現地に赴任。現在もNPCIとの窓口として、プロジェクト全体を統括する役割を果たしている。
「2015年にNPCIとの提携契約書を交わし、2017年からJCBカードがインド全土の加盟店・ATMで使えるようになり、そして今回インドで初のJCBカードの発行と、着々とインドでのJCBビジネスを拡大してきたという思いがあります」と高久は語る。
今回、高久たちが手がけたRuPay/JCBカードは、NPCIが管理・運営する国内ブランドRuPayと、国際ブランドJCBの二つが一体となった、デュアルブランドカードと呼ばれるものだ。インドでは国内ブランドであるRuPayカードが広く普及しているが、RuPayブランド単独のカードはインド国外では使うことができない。今回のRuPay/JCBカード発行によって、NPCIにとってはインド国外のJCB加盟店・ATMでのカード利用が可能となり、JCBにとってはRuPayブランドのインド国内認知度を活用して、JCB会員基盤の拡大とJCB取引の増大につなげられるメリットがある。

JCBの海外提携モデルの
ひとつ、
アライアンスモデルの
さらなる進化へ

「インド全体をカバーする決済ネットワークとの提携という特殊性のため、これまで経験したことのない難易度の高いプロジェクトになりました」と高久は振り返る。
高久たちがインドで進めてきた提携モデルは、「アライアンスモデル」と呼ばれるものだ。JCBが進める海外展開の提携モデルは大きく二つに分類されている。ひとつは銀行をはじめとした個々の金融機関とライセンス契約を結び、その金融機関を通じてJCBカード発行や加盟店の開放を推進する「ライセンスモデル」。もうひとつがその国の銀行等の金融機関を束ねる決済ネットワーク運営者と提携し、間接的に「ライセンスモデル」を推進する「アライアンスモデル」だ。
「アライアンスモデル」では、その国の決済ネットワークを窓口として個々の金融機関と間接的に提携することにより加盟店やATMネットワークを一気に広げることができる。またその決済ネットワークが保有する国内カードブランドとJCBブランドをセットで現地金融機関に推進し、ライセンスモデルでは実現が難しいマーケットシェアの飛躍的拡大を図る手法でもある。
一方で、各国の決済ネットワークは独自の決済ルールやシステムを保有していることが多く、JCBの世界共通ルールやシステムの変更を迫られることがある。今回のプロジェクトでも、NPCIのインド独自ルールやシステムと、JCBの世界共通ルールやシステムの融合という点で、さまざまな壁に突き当たった。
「通常、海外提携先によるカード発行やアクワイアリングは、JCBが定めるルールに基づいて行われますが、今回の場合はインド国内でのRuPay取引とインド国外でのJCB取引を一枚のカードで実現させるため、NPCIのルールを尊重する必要があり、インド独自のルールを新たに策定したり、システムの大幅な改修をすることになりました」と高久。商習慣・文化やビジネススタンスの違いに苦労しながらも、高久は真のニーズの把握や、対応策の度重なる検討に尽力した。毎日のように、日本の国際営業一部と連絡を取り合い、NPCI側の要望を慎重に見極めながら、一つひとつ課題をクリアしていった。「契約面でもシステム・オペレーション面でもこれまでにない複雑なアライアンスモデルとなりましたが、一見解決不可能にみえる数多くの課題を創意工夫により解決していき、なんとかカード発行の開始までこぎつけることができました」と高久は語る。

アライアンスモデルならではの
難しさと、
会員拡大と
利用促進のための施策の展開

その日本側の窓口となって、JCBルールとインド独自ルールの共存のための社内調整にあたったのが佐藤だ。佐藤は2017年に国際営業一部に異動後、インド、スリランカ、ミャンマー、バングラデシュなどの国々を担当。南アジアチームのリーダーとして、今回のプロジェクトでも、社内の関連部署との調整にあたった。
「RuPay/JCBカードがインド国外ではJCBカードとして正常に機能させつつも、NPCIルールの制約上、JCBのルールに準拠できない部分をどのように克服するかが課題でした。両社のシステム接続仕様、カード製造にあたっての各種認定プロセス、不正取引発生時等のオペレーション方法など、NPCIとのルール差分は多岐にわたりましたが、両社にとっての最適解を探すために高久や現地スタッフと密に連絡をとりながら課題解決に努めました。JCBカードとしての品質を担保しつつも、インド特有の要望をフレキシブルに吸収できるよう、これまでの他プロジェクトでの経験や専門知識を最大限に活用した案件だったと思います」と述懐する佐藤。
佐藤は、中国銀聯、米国Discoverとの加盟店開放案件や、ブラジル、メキシコ、ロシア等での提携先立ち上げなど、JCBの海外提携先の拡大業務に長く携わってきた経験があり、「それぞれの協業相手や国特有の条件を踏まえ、いかに最善かつ持続的なビジネスの基盤を作り上げるか、そこがJCBの持つ柔軟性を強みとした国際カードビジネス展開の醍醐味」と言う。
高久や現地スタッフ、佐藤たちはいくつもの壁を乗り越え、ついに2019年7月、「RuPay/JCBカード」の発行にこぎつける。ところがまたもや問題が発生。カード発行開始に合わせて準備をしていた全世界が対象となるキャンペーンについて、NPCI側から内容を再検討したいと急遽申し出があったのだ。その対応にあたったのが国際営業一部の西本だ。西本はシンガポールやオーストラリア、台湾、韓国などでキャンペーンなどのマーケティング活動に携わってきた。2018年にインド担当になり、インド展開に関するイベントの企画・運営やキャンペーン活動を担当している。
「カード発行の目玉として用意していた全世界キャンペーンですが、急遽内容を再検討することになってしまいました。大規模な施策だったため準備には多くの時間を割いていたのですが、海外ビジネスにおいてこの手の話はよくあること。他国のマーケティング活動での経験を活かして交渉窓口となっているムンバイ拠点をサポートし、その後なんとかキャンペーンを開始することができました。日本ではなかなかこういうことは起こらないと思いますが、その国々での仕事の進め方を尊重する姿勢は国際ビジネスに必要な心構えかもしれません」と西本は語る。

次なるステージに向けて、
グローバル最前線での
戦いは続く

2019年7月にムンバイで行われた「RuPay/JCBカード」発行セレモニーには、西本も日本から参加。現地スタッフも交えプロジェクトの節目に対する達成感と喜びを分かち合い、祝杯を挙げた。
とはいえ、インドでのビジネス展開が一段落したわけではない。
今回発行にこぎつけたカードは銀行口座の残高を上限としてカード利用できるデビットカードであり、インド国内最大のデビットカード発行枚数を誇る State Bank of Indiaや同じく大手行のPunjab National Bank、Central Bank of Indiaなど8行から発行されている。
しかし、高久には、さらに発行金融機関を増やし、インドでのカードビジネスを拡大していくという大きなミッションがある。また、今後はクレジットカード発行を希望する金融機関にも対応していく予定だ。
佐藤もまた、RuPay/JCBカードの魅力向上を図るべく、インターネット決済に関する追加機能やプレミアム会員向けのサービスなどについて、高久が収集するNPCIや金融機関のニーズを踏まえ、インドでの最適な導入方法を社内の関連部署と検討していく。
西本も、ムンバイの現地スタッフと連携しながら、インドにおけるJCBカードの利用促進や、RuPay/JCBカードのインド国外利用率アップのための施策を企画・実行していくミッションがある。JCBの国際カードビジネスの拡大に向けて、高久、佐藤、西本、それぞれのグローバル最前線での戦いは続く。